世界のおしまいに
ぼくがしたいこと−あるいは 大きなリセットボタンと指。

 

 

キンコンカンコン。
『今夜の零時で世界はおしまいです。荷物を纏めて自分の部屋で待機して下さい。』
『勿論、雨天決行です。すみやかに活動を停止して下さい。』

遠くの拡声器からアナウンスの声が響いてきた。
僕は部屋を一回見回し、充電中のヘッドフォンをACアダプタから外し、
電気を消して、部屋を出た。
中央通りには車は殆ど走って無くて、塀の上では、
気の早い猫が早くも動きを止めて固まっていた。
自信を持って時を告げる、ねじ巻き鳩時計の長針の様に。
空中の一点。その気取ったヒゲがピンと指し示していた。

自信沢山のヒゲに従い、僕は図書館に向かった。
予想通りにすっかり寂しくなった書架の列。
「ベルトゥチカ」「オルフェリア」なんて名前の並んだ重たい重たい画集を抱えて
足音パタパタ、貸出カウンターに持って行く。
『世界のおしまいの前日の図書館で貸し出し係を勤める女の子。』
そんな女の子を説明する際の基準は非常に難しいけれど、
本が好きか好きでないかというなら、

余り好きではなさそうな感じ。

「止まりますか?」
「当たり前でしょ。」
「図書館に居て良いですか?」
「勝手にすれば良いわ。」

やな感じ。

「二週間後迄に返却して下さい。」
まるで、おしまいなんて関係無いみたいに、女の子は次々と書類を片付けて
紙飛行機を作って飛ばしている。
僕は、紙飛行機なら得意で、良く飛ぶのを作れる。
だから少しばかり、紙飛行機を作るのを手伝った。
すっかり見おろせる三階の手すりから、一階のカウンターまで。
吹き抜けに飛ばした紙飛行機は、それぞれ少しずつ違う軌跡を描いて
三つがカウンターの中に、二つが灰色のカーペットの上に落ちた。

階段に腰掛けて、黴臭い画集を開いて、ベルトゥチカの横顔を見て、
オルフェリアにお祈りして。さようならブレンヒルド。

画集から目を上げると、床には色々な種類の必然が次々に落ちていて、
周りは更になんでも無い寂しさでがらんとしてしまっていた。
天井の上から次第にゆっくりと、網膜を焼き始めた蜜柑色の光線。
眩しくて。僕もヒゲを生やしていれば良かったなと思った。ああ。

天井は消えて。開かれた空一杯に広がる。密度がどんどん薄くなって
真っ白に眩しくて、ずっと向こうにACアダプタが漂ってる。

眩い。

 

 

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