先行者外伝1『第二次世界大戦編』  大都了

 大日本帝国の最終兵器人型機動兵器『ASIMOT』の強さは まさに怒涛なるものだった。米軍は沖縄より敗退 英国・独国の帝国軍による奪回 理由は知れないが 米国は帝国に対し和平を持ちかけているという情報も入っている。
 もう既に 我が国 中華に対する帝国の横暴に 抗議を出来る国及び勢力はなくなったと思われる。一体 何時になったら帝国による支配が終わる時が来るのだろうか……
「っと まあこんなものかな」
 青年――18ぐらいだろう――の声と共に 規則的に鳴っていたタイプライターの音が止む。
「一息つくか……」
 ため息をつき 椅子に座ったまま背伸びをする。一息つくといっても 何があるわけでもない。今の時世 茶は高級品 菓子もない。
 何かないかと周りを見渡すが 目に付くのはいつもの薄暗い部屋の中のごちゃごちゃしたものだけだ。
「外の空気でも吸って来るかな……」
 どうも最近 独り言が多くなってきた気がする。まあ 一人で何時間も 場合によっては2・3日は部屋に引きこもったままの仕事だ。仕方ないといえば仕方ない。独り言でも言わないと 言葉を忘れてしまいそうだ。
 そういえば 何日も風呂に入っていない。臭いは大丈夫だろうか。はっと気付き 苦笑する。翌々考えれば ここで毎日に風呂に入れる人はいないだろう。町の方に行けば いや帝国軍に媚びでも売れば 毎日入れない事も無いだろうが それだけは御免だ。
 第一自分は男だ。帝国の奴はそう言う趣味の奴が多いらしいが 実際はどうだろうか こういうのを記事にしても面白いかもしれない。
 考えていても切りが無い。とりあえずは外に出よう。そう思い椅子から立つ。何時壊れても不思議ではない扉を開け 入ってきた光に目を細くする。他の人はどうかは知らないが 自分はこの瞬間が一番好きだ。太陽とは 自分たちを育てているものだと実感できる。
「おう シャンじゃないか。記事は出来あがったのかい?」
 男らしい無骨な声 ここ 反日拠点(拠点というほど大きくも無いが)のリーダーをしているヘイだ。
「一応な。これからもう一度読み返して見て 特に問題が無かったら印刷できる」
 どんなに下書きを書いても いざ記事にして見ないとわからなかった問題が在ったりする。タイプライターの紙とカーボンはもったいないが 自分は昔からそうしている。
「頼むぜ。お前の記事は評判が良くてな」
「期待に応えれる様に努力するよ」
 そう応え ふと気付く。
「そういえば 何でここにいるんだ?この辺りには リーダーが見に来るようなものは無かったと思ったけどな」
「ん?まあな……」
 言葉を濁すヘイ。何か事件でもあったのだろうか。いや それなら自分に隠す必要はない。まだ未確認で 下手に言う事が出来ない内容だと考えるべきだろう。
「誰にも言わないと約束してくれるか?」
「ああ それぐらい出来ないと記者は出来ない」
 周りに人がいない事を確認して ヘイが身を屈めて言ってくる。
「実はな……。この辺りに帝国軍が来ているらしいんだ」
 多少は驚いた。が 滅多に無い事でもない。恐らくまだ続きがあるのだろう。
「その帝国軍の目的がな。中華軍の強襲みたいなんだ」
 今度は驚いた。
「何故軍がこんなところに?第一 帝国軍も襲う理由が無い」
「いや……これはまだ未確認なんだが 帝国軍に通達無しで演習を行う予定らしい」
「………つまり 帝国軍に知られてはならないもの 奥の手のような物があるのか」
「だろうな」
 奥の手 秘密兵器 最終兵器 どれにしても 帝国軍の手に渡って良いものではなさそうだ。
「帝国軍の存在に気付いているのか?」
「いや どうだか」
 最悪 争いになったらこの里まで被害が及ぶだろう。これがきっかけで帝国の弾圧が増すかもしれない。未確認であるらしいが ほっといて良いものではない。
「それの確認を取りに町に下りるのか?」
「ああ」
 自分の家は 印刷などの問題から町への通り道にある。
「最悪 俺達が動かなくちゃあいけないかもな」
「そうならない事を祈ろう」
 自分の言った言葉に肩をすくめ ヘイの肩を叩く。
「まあ頑張ってくれ」
「何を頑張るかは知らないが できるだけ努力するよ」
 ヘイも肩をすくめ 里の出口 山を下る道を向く。
「じゃあ俺はもう行くからな」
「ああ」
 短く返事をし 里の中のほうを向く。
「おお 言い忘れてた」
「………」
 タイミングを見計らったように言ってくる。実際見計らっていたのかもしれない。振り向くと ヘイが人の悪い笑みを浮かべている。
「ミンレイが探してたぜ。お前の事」
「………」
 とりあえず目を細くして睨んでると そこまできつい顔をした覚えは無いんだが ヘイが顔を引き攣らせている。
「えっと じゃあ俺はもう行くからな……」
 後ずさりしている。なかなか楽しいかもしれない。
 姿が完全に見えなくなるまで見送ってやって もう一度里の方を向きなおす。ミンレイが探していたというなら 会いに行くのが礼儀だろう。
 暫く里の通りを歩くが こういう時は自分の家の位置を恨めしく思う。そんなに遠いというわけでもないが 近いわけでもない。何より 里の広場に行くまでに 人に会い過ぎる。別に人が嫌いというわけじゃあないが 会う人会う人何か言ってきたらうんざりする。自分もこの里で暮らしているのだから 文句は言えないが 人には苦手なものが2・3在る物だろう。それに対し責める権利は誰にも無い筈だ。
「あ!シャン!!ここに居たんだ」
 考え事をしていて気付かなかったが 何時の間にか町の広場まで来ていた。広場の方から16・7の少女――ミンレイが走ってくる。
「さっきから探してたんだけど 何所に居るかわからなくて」
「仕事をしてたからな。つい今しがた終わった所だ」
 それを聞いて嫌そうな顔をするミンレイ。何故だか知らないが 彼女はこの仕事の事をよくは思ってないらしい。
「まあ良いけど……ねえ今日はなんの日かわかる?」
 言われて 考える。そう言えば今日は何日かもわからない。何日かもわからないのになんの日か当てるのは至難の技だろう。少なくとも自分に出来るとは思えない。
「いや わからないな」
 不機嫌そうな顔になるミンレイ。そんなに重要な日だったのだろうか。彼女の誕生日は大分前にあった。約束も無かった筈だ。思い当たる事は無いが 一体なんの日だろうか。
「今日はねぇ。シャンの誕生日なんだよ」
「だったけ?」
 呆けているんじゃあない。自分の誕生日なんて完全に忘れていた。それにまさか彼女が自分の誕生日で騒いでいるとは思わなかった。
「覚えてなかったの?まあシャンらしいけど……」
「すまないな」
 何故自分が謝っているかはわからないが つい謝ってしまった。
「それでね。今日はそのお祝いをしようと思って」
 別にして欲しいわけでもないが 断る理由も無い。断ったら彼女が不機嫌になって余計ややこしくなるだけだろう。
「ああ 頼む」
 応えて ふと思い出す。もしかすると 今日には軍に警告しに行かなくてはならなくなるかもしれない。ヘイに口外しないでくれと言われている以上 理由を言うわけにはいかないが 期待だけさせるのもなんだろう。
「いつするんだ?それは」
「えーと 今晩と思ってるけど……なんで?」
 今晩 最悪だ。里から出て 大人数で行動するのは専ら夜行う。一人二人ならまだしも 6人7人がずらずら里から下りていたら 見つかる可能性も高い。
「もしかすると 予定が入るかもしれない」
「予定って?って聞いても答えてくれないだろうけど」
「悪いな」
 こういう事は初めてじゃあない。だからだろうが妙になれている。
「明日にはその予定は終わる?」
「多分」
 確証は無い。どんな事件が起こるかわからない以上簡単に二つ返事するべきではない。
「じゃあお祝いの準備はしておくから 明日しようか」
「ああ それでいいならな」
             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「シャン いるか?」
 日が下り始めてきた頃 ヘイの声がする。
「ああ いるぞ」
 答え 扉まで歩いていき 外に誰がいるか探って見る。気配は一人だけじゃあない。里の若い男が集まってきているのだろう。
「最悪の場合だったぞ」
 扉を開けて 顔を会わせたと同時に言ってくる。そのヘイの後ろには 思った通り里の若い男が集まっていた。
「らしいな」
 扉を開けたまま中に戻る。ヘイとその他大勢が 家に入ってくるのが気配でわかる。ランプを点け 机の上のものをざっと片付ける。部屋の隅から地図を取り出して 机の上に広げる。
「二つの軍の位置は?」
「えーと」
 少し悩みながらヘイが指差す。
「ここが帝国軍 でこっちが中華軍」
 ヘイが指したところに赤と青のピンを刺す。
「近いな」
「ああ この分だと接触は今晩から翌朝までになる」
 山の所にも黄色のピンを刺す。
「里はここだ。ここから中華軍まで急いで3時間は掛る」
 そこで一度言葉を切り 少し考える。今から行ったんじゃあ手遅れになるかも知れない。
「帝国軍の移動も考えて ここから帝国軍まではだいたい1時間程度」
 帝国軍の移動を 予想されるものより少し多めに取る。ヘイがここに来るまでのタイムラグの分だ。
「これなら二手に分かれたほうが得策だな。片方は中華軍に警告 もう片方は帝国軍の足止めだ」
「警告組は健脚な者 足止め組はその他って構成か?」
「いや――警告の方はそれでいいが 足止めは俺とヘイだけでいい」
 里の若い衆――実は名前を知っている奴はほとんどいない――にざわめきが起こる。自分の考えが判らなかったのだろう。
「足止めは下手をしたら捕まる恐れがある。ぞろぞろ連れて行くよりは 小人数で足止めした方がやりやすいし 里から若い衆が全員消えても困る事が起こるだろう」
「まあ 確かにそうだが 二人でいいのか?」
「ああ 足止め自体は30分もいらない。多少騒がせるだけでいいんだ」
 組織というものは 大きければ大きいほど 細かい所のチェックには時間が掛る。何者かに襲われた軍が もう一度動き出すまでには意外と時間がかかる。襲撃者の目的がわからない以上 そう簡単に動くわけにもいかない。指揮官が余程の馬鹿でもない限り そう考えるだろう。実の所 二人で行くのも同じ理由からだ。捕まった後に 襲撃者が二人しかいなかったら 周りに仲間がいると思うのが普通だろう。
「お前がそう言うんなら 理由が在るんだと思うが……」
「嫌なら他の作戦に変えるが?」
 ヘイが溜息をつき 真剣な顔で返してくる。
「……いや これでいい。他の作戦を説明している時間ももったいない」
 それだけ言うと 周りの若い衆の方を向き 命令を出し始める。
「じゃあ フェイとウォンは今すぐ中華軍の方に向かってくれ。他の奴は家に帰って待機。異論がある奴は今のうちに言っとけ 何も無いなら解散だ」
 暫しざわめいていたが リーダーであるヘイが認めたからか 皆家から出ていく。二人だけ残っているが 恐らくフェイとウォンなのだろう。新しく地図を二つ取り出して 里の大体の位置と 中華軍の所に丸をつける。一応 帝国軍の予想進路も書く。それを折りたたんで二人に渡す。
「じゃあ行ってくる」
「留守を頼みます」
 二人がそれぞれ言ってから 家から小走りで出ていく。それを見送ってから 家の隅 物が無造作に置いてある所に行く。
「何をするんだ?」
「足止めにはそれなりの装備が必要だ」
 そこには 趣味で集めている 明らかに日常生活で役に立たないものが所狭しと置いてあった。
◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 途中小休止を挟んで 帝国軍が来るであろう道に着いたが 予定よりはかなり早かった。道にトラックのタイヤ跡が付いていないから 帝国軍もまだ通っていないのだろう。奇襲をかける部隊の場合 望ましいのは小人数で組まれた部隊だが 帝国軍に敵になるものはここには多い。何より中華軍 しかも演習の為の部隊に奇襲をかける以上 武装はかなり必要だ。未通知で行っているものになら尚更だ。
 相手の予想される戦力は 人型機動兵器が2・3体 戦車は目立つので無い。後はマシンガン程度の武装の兵士10数人と考えるべきだ。これ以上の戦力は目立ち過ぎる。
 道はある程度まで直線で 自分達がいる場所からなら 相手の照らす照明でそれを判別できる。
「にしても遅いなぁ。もう少しゆっくり来ても良かったんじゃあないか?」
「それで間に合ってなかったら 笑い話じゃあ済まないぞ」
「まあそうだが……」
「それに もうそろそろ来ても可笑しくは無い時間だ。気を引き締めとけ」
 言い合っても意味が無いと判断したのか 肩をすくめて道の先を見つめるヘイ。
 ―――暫しして ヘイを道の脇に引っ張り込む。
「なんだ!?」
 それには答えず ヘイの口に手を当て 静かにしろと伝える。
「……なんなんだ?」
 今度は静かに聞いてくる。
「エンジン音が聞こえた。帝国軍が向かってきてる」
「照明は見えなかったぞ?」
 それに対し どう答えて良いか考える。
「暗視ゴーグルだと思うが……わかるか?」
「いや わからん」
「………」
 まあ普通は知らないだろうが 反日テロリストの割には無知とも言える。
「暗視ゴーグルには 二つ種類がある。一つは赤外線ゴーグルやサーモグラフィなんかだ。これも判らんかもしれんが 深く説明する時間はないから説明しないぞ」
 それに頷くヘイ。
「多分今回はこっちだと思うが もう一つは光を何百倍にもして見るもの まあこっちが本当の暗視ゴーグルだな。それを装備してるんだと思う。ある程度までの望遠機能もあるから このままあそこに居たら見つかってたな」
「そんなものがあったのか……」
 何に感心しているかは知らないが 感心したように言うヘイ。
「ああ だが赤外線ゴーグルよりはいくらかマシだな」
「どうしてそっちじゃないと判るんだ?」
 また悩む。説明が面倒くさい。
「日本軍もそんなに装備が充実してるわけじゃあない。この程度の部隊に支給されるに装備に そんなに良いものがあるとは思えない。この程度で良いか?」
「……良いぞ」
 どうやら これ以上聞いても無駄と判断したようだ。
 そのまま待って 数分後だろうか。エンジン音と タイヤが砂の上を走るときの特有の音が近くなってきた。一台ではない数台のものだ。
「本当だったみたいだな」
 信用してなかったのか と突っ込みをいれたくなる衝動を押さえ 家から持って来た袋から筒を二つ出す。
「なんだ?それは」
「閃光筒だ」
 それだけ答えて 筒から伸びている紐を掴む。音で帝国軍の大体の位置を探り それの上を狙って紐を引く。
 筒から光の球が飛び出していき――刹那 辺りが真昼のように明るくなる。
「うわぁぁぁ!!!」
 悲鳴が聞こえる。暗視ゴーグルで倍増された光が目に飛び込んできたのだ 仕方ない。光が収まってからもう一本も紐を引く。もう一度光が辺りを照らし 敵の位置を明確にした。
「行くぞ」
「……おう」
 まだどういうものか判ってないのか 首を傾げながら応えてくる。
「襲撃だ!武装しろ!」
 そんな声がした(何て言っているかはわからなかったが)が もう遅い。ジープの出口の横に立ち 兵士が出てきたところを不意打ちで倒す。一両目を完全に無力化した所で他の車から兵士が出てきた。
 規則的で早い マシンガンの乱射音がする。既に光は収まっているが 相手はもう一度閃光筒を使われるのを恐れてか 暗視ゴーグルはして無いようだ。マシンガンは手当たりしだいに掃射している。
 とりあえずジープの陰に隠れて様子を見る。
「あいつらは味方に当たるという事は考えないのか?」
 信じられないといった声で話しかけてくる
「だろうな。なんせ帝国には神様が付いているそうだからな。神様が味方からは外してくれるんだろ」
「都合の良い神様だな」
 肩をすくめるヘイ。
「でもどうする?このままだとヤバイぞ」
「そうだな。もう一度驚いてもらうか」
 軽めに言ってくるヘイに軽めに答え 袋からまた筒を取り出す。
「それは?」
「発煙筒だ」
 今度はわかったらしい。袋から黄燐マッチを取り出し ジープのナンバーに擦り付け火をつける。それを発煙筒の導火線に付け 帝国軍兵士がいる大体の所に投げる。
 高い噴出音がして 帝国軍の驚愕の声が聞こえる。
「ジープの上に昇るぞ」
「なるほど」
 ようやくこちらの考えが分ったのか 素直にジープの上に昇るヘイ。それを見届けてから 自分も昇る。上から見ると 兵士がいる辺りは白い煙で囲まれている。マシンガンを打つのも止めているようだ。暫く待つと だんだん煙が晴れてきて 兵士の様子が見えてきた。向こうも視界が戻ってきたからか また噴射をはじめた。敵に聞こえないように 注意しながら言う。
「もう少しで弾が切れる。そのタイミングを狙うぞ」
 言葉は返ってこず ヘイが無言で頷くのが気配でわかる。
 10数秒ほどして 火薬の炸裂音が止む。そのタイミングを狙って飛び降りる。
「!?」
 手近に居た兵士のみぞおちを肘で打ち昏倒させる。続いて降りてきたヘイも 近くに居た奴を殴り倒す。次の標的を決め 間合いを詰めようとした瞬間――辺りが明るくなる。
「……おい どうする?」
 明かりの方向を見ながらヘイが言ってくる。
「一先ず投降するか」
 そこには 3体の巨大な人影――帝国軍人型機動兵器『ASIMOU』が立っていた。
◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何の目的でこんなことをした?」
 偉そうに立っている男――『ASIMO』に乗っていたところから見ると 恐らく階級が最も高いのだろう――の横に立っている通訳らしき男が言ってくる。
「格好ワリィ」
 ぼそっと 手が後ろで縛られているヘイが言う。
「お前も日本語は喋れないからお互い様だろう」
 同じく手を縛っている縄を解きながら答える。通訳の男の方を見ると それを偉そうなのに話して良いか迷っているようだ。
「自分は少しなら日本語が話せる。通訳は要らない」
 その言葉に 男立ち ついでにヘイも驚愕する。
「ただし余り早口で話されたり 難しい言い回しをされたりしたら理解できない」
 暫く ジープの中に居る兵士の間でざわめきが起こる。こいつ等はこっちの事を何だと思っていたのだろうか
「良いだろう。おい お前はもう良い。見張りの方に回れ」
 偉そうな男が偉そうに通訳に命令する。通訳は一度偉そうなのに敬礼し ジープから出ていった。
「もう一度聞く。何の目的でこんなことをした?」
「帝国に怨みが会って 帝国がここを通るという情報があったから襲った。それだけだ」
「なら他にも仲間はいるだろう?それは何所にいる」
「仲間はいない。二人だけでやったんだ」
 暫く会話が途切れる。偉そうなの――以下えらそ――が何も言わない隙に横を見ると 不思議そうな顔でヘイがこっちを見ている。
「お前……何所で日本語なんて覚えたんだ?」
 その言葉に 少し迷う。答え方が見つからない。暫く考え 正直に言う。
「悪いが 答え方が見つからない。また今度 ゆっくり考えられる時に答える」
「まあ……それでいいが……」
 ヘイも のんびり話している場合じゃあ無いと思っているのか 少し不服そうだが納得したようだ。
「何を話している?」
「これからどうするかだ」
 問題が無い程度の嘘をつく。えらそはそれで納得したようだ。
「貴様が本当のことを言っているかは知らないが どちらにしても暫くここに居てもらう。文句があるなら今のうちに言っておけ」
 えらそが言った後 ヘイが聞いてくる。
「何て言ってるんだ?」
「俺達をここに監禁するらしい」
 端的に説明する。それでヘイは納得したみたいだから問題はない。
「この部隊はどこに向かっているんだ?」
「お前がそれを知る必要は無い」
 一応聞いたが無駄だった。もしかしたら詳しい情報が入るかとも思ったんだが
「ならもう無い」
 当初の目的は達成したわけだから もうこれ以上何かする必要は無い。えらそがこっちを睨んでから ジープから出ていく。ジープの外で暫く声がして 今度は男が二人 中に入ってきた。
「これからどうするんだ?」
「そうだな……中華軍の方に付いた時に脱出するぞ」
◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 舗装されていない道を通っているからか ジープ中に伝わってくる振動が酷い。その所為で何度か失敗したが 腕を縛っていた縄はもう解けた。ヘイのはその必要は無いだろう。
「もう少しだ」
 どれだけ走っていたか ざっと計算してから呟く。帝国兵が睨んでくるが 気にしない。ヘイは言葉こそ返してこないが 小さく頷いたのが見える。
 数分経って ジープが止まった。他のジープはまだ進むようだが 自分たちを乗せたこれはここまでなのだろう。周りから他の車両がいなくなるのを待って 後ろにやっていた手を前に戻した。兵士は抵抗しないものと思って安心しているのか こちらを見向きもしない。隣でヘイが立ち上がり それに合わせて自分も立ち上がる。兵士は二人マシンガンを持っている。(何故こんな狭い所でマシンガンなのかは知らないが)
 ヘイが兵士の一人に突っ込んでいく。
「!?」
 ヘイの体に吹っ飛ばされ 兵士が車から落ちる。
「このぉ!」
 もう一人が銃を構える。が 遅い。構えた銃を蹴り飛ばし そいつの顎を打つ。力を失い倒れる兵士。飛ばされた方を見ると やはり伸びていた。
「こんなもんかな」
 ヘイが腕を縛っていた縄を引き千切りながら言う。何時見ても凄い。
「外に飛んだ銃を回収してくれ」
 自由になった手を 馴染ませる為か 振りながら外に出た。自分も兵士から銃を奪い取り 後に続く。さっきの道をかなり進んだ辺りなのだろう。外の風景はかなり変わっていた。 林はなく 石もちらほら見える平原になっていた。
「急いで後を追うか」
 マシンガンを持ったヘイが言ってくる。
「追うのも良いが それの使い方はわかるか?」
「狙いをつけて引き金を引く。それだけだろ?」
 正しいといえば正しいが 間違っている気もする。とりあえず近くによって 安全装置を外してやる。
「狙いをつけるときは足を狙うこと いいな?」
「ああ良いが 理由は?」
「帝国軍の兵士を殺さずに戦闘不能にするには 足をやるのが一番だ。いくら敵と言っても殺して良いわけじゃあない」
 苦笑し 続ける。
「それに 間違って味方を撃っても笑って済ませられるからな」
◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 中華軍の野営地点に着いた時には 当たり前と言えばそうだが 既に戦闘が始まっていた。中華軍兵士らしい負傷者が そこ辺りに転がっている。
「ASIMOがいないな」
「ああ……」
 別働隊としてそこ辺りにいるのか それとも最初から別の任があったのか それは知らないが嫌な予感がする。
「フェイとウォンがここに来てるはずだ。探して合流しよう」
「そうだな」
 ざっと辺りを見渡して やけに大きなトラックがあることに気付く。
「機動兵器の……輸送をしていたのか……?」
「おい!!どうした!?」
 中央の方 まだ戦闘音がする方に向かっていたヘイが声をあげる。
「ヘイ!あそこのトラックに行くぞ!!嫌な予感がする!」
 一瞬 ヘイは迷うような仕草を見せ 頷いた。それを見て 銃を構えてトラックの方に走る。途中 何度か帝国兵士に会ったが 向こうは不意を突かれたからか あっさりと戦闘不能に出来た。そして 着いた。
「ここに何があるんだ?」
「見れば判る」
 そう言って荷台の中を除きこむと 人影が見えた。向こうもこちらが見えたようで 銃を構えてくる。
「来やがったな!」
「フェイ!待て!!」
 撃とうとした奴とそれを止める奴 両方とも見覚えがあった。
「フェイ!ウォン!」
 ヘイが叫ぶ。向こうの二人も驚いているようだ。
「ヘイさん!?ならそっちは……」
「俺だ」
 端的に答える。答えとは言い難いが
「シャンさん!!よかった……二人に会えて」
 銃を持ってない方 確かウォンとかいう方が言ってくる。
 とりあえず荷台の中に入る。そこに 機動兵器の足の部分が見えた。
「これは……なんなんだ?」
 ヘイはこれが何か判っていない様だが 間違えなくそれに見えた。
「実は……これの機動実験をするために中華軍はここに来ていたらしいんです」

 フェイとウォンに大雑把に説明を受けた。この中華軍は帝国の人型機動兵器に対抗する為の兵器『先行者』を作っていて それの機動実験をする予定だったらしい。二人がここにいたのは 中華軍の中尉が 『戦闘中は調べる余裕なんて無いだろうから ここにいてくれ。俺達が敵を中心部に引きつけるから』と言ったかららしい。
「機動実験……という事は武装は弱いかもしれないが 動きはするのか」
「え?」
 自分達が来て 安心していたのか 自分が何て言ったのか聞き逃したようだ。
「コクピットは……頭部に在るみたいだな」
 そう言って頭部に向かおうとすると フェイが止めてきた。
「ちょっと 動かせるんですか?」
「さあな 説明書ぐらい置いてあるかもしれん」
「でも……!!」
 フェイを ヘイが退けた。
「帝国はASIMOを3体持ってきてる。このまま戦い続けても勝ち目は無い」
「!!」
 まだ何か言いたそうだったが ヘイの厳しい目に睨まれて何も言えなくなっている。それを横目で見ながら コクピットに向かう。……頭部の横に入口があった。鍵が掛っているかとも思ったが 以外と簡単に開いた。中を調べていると 操縦席の横に本があった。
「なんとなりそうか?」
「ああ 説明書が在った」
 それをざっと見て 内容を覚える。どうやら武装はしてなく 手の部分が攻撃に使えるようだ。一通り内容を覚えて 本を閉じる。
「離れていてくれ。起動させてみる」
「わかった」
 ヘイが離れてるのを見届けて 操縦席に座る。左手のボードを叩く。操縦席に明かりが灯り 機械が起動してきた。一度深呼吸をして 両手の操縦桿を握る。

 『先行者』の体が荷台を覆っている布を破り ゆっくりと立ち上がる。両軍とも戦うのを止めてしまっていた。予想だに出来なかった出来事 それが起こっているからだ。
「先行者……」
 サングラスを掛けた 中華の兵士が呟く。
「一体 誰があれを……?」
 皆 唖然として 時が止まっているようにも見えた。先行者が立ち上がり 地にその足をつけた。それを眺めていて サングラスの兵士がはっと気付く。
「今がチャンスだ!帝国兵を一掃しろ!!あれが俺達の援護をしてくれる!!」
 口から出任せを言っただけだが 士気を上げるにはちょうど良い。この声に両軍とも正気を取り戻し 再び戦いを始めたが 形勢は変わっているように見えた……。

「すげぇ」
 ヘイが呟く。
「これが……中華の秘密兵器……」
 フェイとウォン どちらが呟いたかは知らないが そんな声が聞こえる。

 先行者を立ち上がらせ 画面で状況を確認する。帝国兵は良いが『ASIMO』は強敵だ。暫く様子を伺っていると 画面の端に反応があった。
「来たか……」
 もう一度 操縦方を頭の中で復習する。準備は出来た。敵は既に戦闘態勢を取っている。
「行くぞ……!」
 一体のASIMOが サーベルを出して向かってくる。
「くらえぇ!!」
 斬りかかってくるそれを 数歩後ろに下がってかわす。先行者の右手が赤く輝き 再び斬りかかってきたサーベルを受ける。
「くそ 武装が悪いな」
 鍔迫り合いをしながら どうするか考える。ふっと 向こうのASIMOがサーベルを引く。
「そちらの機体のパイロット!名前を何と言う!」
 スピーカーで聞いてくる。こちらもスピーカーをいれ 応える。
「シャンだ!そっちは!?」
 日本語で応えてやる。
「山岡だ!」
 端的に応えてくる。もしかすると気が合うかもしれない。その川村とやらは 間合いを離して他のASIMOと合流した。3体一片に掛ってこられたら こちらの分が悪い。
 暫く待っているが 掛ってくる気配は無い。すると 山岡と名乗った奴の機体がここから離れていく。つまりは戦線から離脱している。
「そこの!!」
 えらその声がする。
「俺が相手だ!!」
 どうやら さっきの山岡とやらと意見が食い違ったようだ。それで単独行動に出たのだろう。ASIMOがサーベルを抜き 構えてくる。こちらも右手を前に出し 構える。
「いくぞ!!」
 ASIMOがサーベルを振りかざす。
「うおぉぉぉ!!」
 サーベルの軌道の中に入り込む。
「なに!?」
「くらいやがれ!!」
 ASIMOの胴体部分 それはがら空きだった。そこを狙って右手を突き出す。ASIMOの装甲を貫き その動きを止める。どうやらこいつはさっきの奴に比べると数段弱いようだ。
「くそ!!」
 ASIMOの頭部が開き 脱出用のパラシュートを持ったコクピットが排出される。それによってこのASIMOは完全に力を失った。
 それから右手を引きぬき もう一体のASIMOに体を向ける。見えるはずが無いが 操縦している兵士が息を飲むのが見えた気がする。
「くるなぁぁ!!」
 そのASIMOは身を翻し 逃げていく。それを見届けながら 息を吐く。とりあえず ここでの戦闘は終わった。見ると 帝国兵は皆敗退をしている所だった。


 これが 帝国から畏怖され 中華から英雄と呼ばれる『先行者』それとそのパイロットシャンの伝説の始まりだった………


ひとこと読書感想文

大都了:
今SSの方でニイハオネタがありますが……
スピーカー通しての声もそれだったりして……
そうだとすれば山岡特佐恐るべし。

A-rex:
ヘイの人格が良くわかって面白かったです。
村の若い衆の反日組織リーダーなのに
あまり帝国軍の装備のことを知らないし
判らないことを言われると呆然とする
そんな人ですよね。

シャンはなんかスパイ的な感じがします。

川村さんは出てきているのですか?
タイプミスでしょうか?


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