お前は鍛冶屋だと思え、少年。

 

お前は鍛冶屋だと思え、少年。 
人の心に自分の足跡を残そうと思ったら、 
その柔らかさをよくみないと駄目だ。 
まず、理不尽に傷ついた時、 
人は悲しむ。心はまだ冷たく固い。 
そして悲しみは怒りに変わる。 
この時はけして触れてはいけない。 
嫌われるばかりで逆効果だ。 
そして十分に熱いまま次に絶望する。 
ここだ。このタイミングで 
人の心はいちばん柔らかい。 
思い切り、好きな形に打ちのめすがいい。 
でもちょっとでも遅れるともう駄目だ。 
絶望を受けいれると、人は諦めてしまう。 
もうこの時にやってきても手遅れ、 
またそこはのっぺらとして傷はつかない。 
どうだ。この街はのっぺらとしているだろう? 
それだけ仕事の下手なやつが多いということさ。 
海はためいきのような波音を繰り返し、 
動物園のライオンまでが 
もうサバンナでは生き抜けないことを知って吠えている。 
泣きやむタイミングを知らないのは、 
乳をまだもらったことのない赤ん坊だけさ。 
お前はまだ泣き続けているな。 
その年になっても終わらせかたを知らないんだ。 
いい仕事をするんだ。そうすればここでは生きられる。 
そしていつかでっかい乳房にありついた時、 
そこで泣きやんでいいのか悩めばいいのさ。 
じゃあな。まったく、今日はちょいと親切にしすぎたよ。 

 

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