Sunny Day Report #1

 

上海のコックは5種類の焼き方を使い分け 
ロンドンの老人は双眼鏡を顔に押しあてた。 
老人は不満げに首をふると長椅子に座りこんだ。 
コックは餃子の焦げ目に納得し 
今日もあまりに空が青いため 
空を飛びながら眠るという 
蹴爪まで青く染まったその鳥がみつからない。 

モスクワでは空港に飾られた熊の剥製から 
乾燥のため尻尾がもげて藁屑がこぼれ落ちた。 
ニューヨークでは投資家が 
ベルリンからロサンゼルスに国境を越えて 
血管を溶解する新薬を輸入をしていた。 
摩天楼の最上階では鼠がこっそりチーズを食べている。 
薬が30年前に開発されていれば 
父の最初の花嫁は助かったんだろうけど 
その時は僕が生まれなかったことになる。 

それにしてもよく晴れた日だ。 
僕は銀行で口座の残高をしらべて、 
世界中、どこにでもいけることを知ると満足し 
10分ほど歩いて海にでた。 
小魚たちが集まってきて 
海底を伝うケーブルから話し声がうるさくて 
昨夜はろくに眠れなかったと苦情をうったえる。 
僕は誰のものかしらないボートに寝ころがる。 

リオデジャネイロでスカートの中を風が通り抜け 
カイロでふたこぶラクダがあくびした。 
ここ1000年。誰も訪れることのなかったアマゾンの奥で 
サボテンの花が1輪、170年ぶりに咲いた。 
ミラノ郊外で水牛が水浴びしている。 
彼女は知らないが12週間前に彼女から絞られた生乳を 
さきほどニューヨークの鼠はかじっていたのだった。 

やがてたくさんの太陽が国境のすき間に落ちて 
海にとけた金色の光が魚たちに吸い込まれていく。 
今夜こそ魚たちがよく眠れますように。 

以上、報告を終わります。 

 

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