移動サーカス団

 

サーカス小屋の裏で 
数奇な運命に翻弄された老ラクダは夢をみていた。 
故郷カイロのナツメヤシの木陰。 
若き日に出会った雌ラクダの滑らかなそのふたこぶ。 

ラクダの膝はすっかり地肌まですりむけて。 
というのも、この移動サーカス団は 
パリの国立劇場なんかでやる大サーカスとは違って 
いつも薄いカーペットを一枚敷いただけの 
砂利だらけの原っぱでやってるからだ。 

高利貸しから追われた一家の夜逃げ先。 
連れ合いをなくした未亡人や寡夫の終の棲家。 
犯罪者や麻薬中毒者の吹き溜まり。 
最果ての地と住民が自嘲気味に呼ぶ街、サン・バルク。 

そんな町でも子供は生まれ 
年に一回、サーカスがやってくる。 
子供たちは図画の時間になると、 
昨夜みたサーカスの様子を興奮気味に描く。 
画用紙の中でピエロは笑い、 
ライオンのたてがみは威風堂々となびいている。 
ラクダの膝だって、ちゃんと色が塗られているのだ。 

 

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