オレンジ・ペコー氏の日記 (妻とかくれんぼ・編)

×月○日

 私は帰宅した。玄関をあけると牛乳瓶が出迎えた。そこで冷蔵庫をあけると妻のバイオリンが入っていた。バイオリンケースをあけるとナイトガウンが。そしてワードローブの中にようやく妻が。毎日毎日こうした悪戯を用意して待つ子供のような妻が愛しい。私は妻に口づけを浴びせると、横抱きにしてベッドに運ぶ。せっかちな私を妻は微笑んで許してくれた。1つ。2つ。3つ背中のボタンを外したところでキャベツが転がりでてきた。妻が無口なのは恥じらいではなくキャベツゆえのことだったのか。なんと凝った隠れかたをするのだ。楽しくなってきた私はふたたび妻を探して野菜庫の中をかきむしった。爪の間にブロッコリーやカブがほじれてこびりつく。しかし妻はみつからない。もしかして近ごろ流行の海賊にさらわれたのかもしれない。次第に私の鼻の穴が不安でひらいてくる。このまま朝になったら警察に行くべきか。私はあらゆる空間に妻の姿を探す。そして新聞配達がやって来る頃、ようやく自転車チューブの中で眠りこける妻をみつけた。ほっとして頭を抱きかかえると、あなたの手、野菜くさいわ。と薄目をあけて妻が笑った。

 

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