永遠と一日

 

百貨店の一階では 
季節がかわるたびに新色が増えている。 
ぼくはこれから千年、二千年と 
人類のメイクアップが続くことを想像する。 
シュウ・ウエムラだろうと、ソフォラだろうと 
いつか新しい色がみつからなくなる日のことを考える。 
そして、永遠なんてものはないんだと気づくんだ。 
いつかドラえもんだって放映されなくなるだろう。 
遠い未来、コンビニの棚にかっぱえびせんはないだろう。 
数学なんだか歴史なんだかわからないぐらい 
ぼくらを苦しめた年表だって長くなりすぎて 
革命や発明、戦争に流行歌、いつか覚えきれなくなる。 

誰も背負いたくないから日が落ちた。 
ふたりは長い散歩に疲れていた。 
缶ジュースを買って、 
ショーウィンドウのふちに座ると 
出会ったその日に、十数年の記憶を、 
電話番号以外をぜんぶ交換しようとしていた。 
そして目的も半ば達成された頃、  
シャッターがもう降りるから。と 
軍人のような警備員がふたりを追い出しにきたんだ。 
すれ違う人の目は赤く充血して、道は次第にお酒臭くなる。 
そんな街でその少女の側だけは甘い匂いがした。 
耳の裏側だけじゃなかった。膝の裏側、脇腹、 
あちこちから同じ匂いがした。 

君は本当の名前を最後まで教えてくれなかった。 
後日、ぼくは鼻が痛くなるまでデパートで頑張って 
その匂いの正体だけつきとめることになる。 
電車が消えたら、私はもういないから。 
そう言ったくせに。いまだってここは耳の裏側みたいだ。 
駅の柱のむこうから、誰か立ち去った書架の隙間に。 
キャロライナ・ヘレラ。甘い匂いがする。 
でも、それだって。いつかは生産ラインが止まるだろう。 
ぼくが胸の痛みを感じることも減っていく。 
道はどんどん歩きやすくなる。 
引き出しの香水瓶からは少しずつ香りが気化して。 
遠い未来、世界のどこかで最後の一本の香りが消えると。 
そしてその瞬間。地球上に君の匂いは 
もう存在しなくなる。 

永遠じゃなかったそれを、 
愛じゃなかった、と言われても、 
どうでもいいよ。そう答えるだろう。 
どうせ、ぼくは永遠には生きられない。 
ぼくの一日の終わりに、 
「愛してなかったんだろう!」 
そうやって灰色の検察官に問いただされれば 
ぼくは心臓の痛みを証人席に呼んで、 
証拠品としてかちかちに固くなったペニスを 
鼻も利かない裁判官に提出するしかない。 
あのいじわる木槌で叩いてみればいいんだ。 

 

■INDEX

(C)2003-Silchov Musaborizky,All rights reserved.