神さまのことば

 

むかしむかし。
偉大なる神さまは山とか森とか海とかアメーバーとか
金魚とか象とか…ともかくいろいろとつくられた。
そして神さまはバナナの出来にすっかり満足すると
最後、蟹の足に肉を十分に詰め込まないまま
ぐっすり眠りにつかれた。

(以下、敬語省略。)

そして何十億年かして神さまが目をさますと
そこにはかわいい猿からどう変化したものか
にんげんというぶさいくないきものが繁殖していた。

神さまはにんげんの世界をのぞき込んでみた。
そこには自分がつくってないものが色々あってびっくりした。
種なしスイカとか野球とかコカ・コーラとかピルとか…

なによりも神さまがびっくりしたのは
にんげんたちのつかってる「ことば」という
へんてこな模様だったり鳴き声だったりするものだった。

自分のことを書いた本がベストセラーだと小耳にはさんで
神さまはちょっと照れながら聖書を読んだ。
するとそこには洪水をおこしたり火事をおこしたり
身におぼえのないことばかり書かれていてむかついた。

罪とか罰とか愛とか赦しとか…それってなんだろう。
にんげんはさわれもしないものを
ことばにしてつくれるらしいと神さまは知った。

神さまは悔しくなってことばについて勉強した。
ロミオとジュリエットを読んでちょっぴり泣いた。
そしてその材料としてはアルファベットが26文字と
オクスフォードの英英辞典が1冊あれば
すっかり同じものがつくれるんだということがわかった。

でも神さまは小学校もでてないので作文が苦手だった。
わたしわ。と書き間違えるたびにむしゃくしゃして
つい地震や洪水、雷を落としそうになった。
こいつはいけない、とおもった神さまは
ながいながいながい錠前をつくりだした。

ひとつひとつのシリンダーには
26文字のアルファベットが刻まれていた。

かちかちかちとひとつずつ動かしつづけていると
いつしかそれがカチリ!とひらいて
ものすごいことばが生まれるんじゃないか?
かちかちかち…全部の組み合わせを回してみることにした。
どうせ自分は死なないから気長に
それはいい暇つぶしになりそうだった。

神さまは自分のつくった世界を見守るのも忘れて没頭した。

 

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