銀色の螺子

 

 真夜中のドーナッツ屋では棚が半分外されて掃除が始まっていた。ドーナッツとコーヒーをテーブルにのせてキャッツのMDを聞いている。片耳を囓り切る。ドーナツの穴からこぼれる感情に名前なんてつけない方がいい。店の外では歩哨が歩き回っている。新しい街の支配者に今夜から変わったのだっけ。私はメサイヤのどの小節でも、どんな高い音でも歌ってみせる。ハレルヤ!それを聞きつけた歩哨が店に飛び込んできて銃床で僕を殴りつける。何度も何度も。流血する額を抑えた手で地面に手をついて立ち上がるとタイルに赤い手形がつく。それで初めてこれがモノクロ映画じゃなかったことに気がつく。床に張りついた手形とじゃんけんをする。過去は変えられないコトを勝利の中で発見する。血だらけのドーナッツをフリスビーのように月まで投げる。まともで腕のいい医者を捜す。精神病じゃない精神科医は、この街では星空に混ざったたった一組の瞳のように貴重だ。もぐりの医者に会えたなら、バランサーのネジを締めてもらおう。銀色で冷たい、たぶんそれは私を構成するパーツの中でいちばん綺麗で大切な部品だから。

 

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